診療科・部門

ニューロケア(神経治療)センター

 近年急速に進歩している小児の神経疾患に対する治療技術を、県内の患者さんにあまねく提供することを目的として、2020年10月に設置されました。神経機能の改善は患者さんの生活の質の向上のみならず、保護者や介護者の負担軽減にもつながります。高度で複雑化したこれらの治療には多診療部門の連携が必要であり、センター化により安全かつ効率的な実施が期待されます。院内および地域の関係機関との連携を推進するとともに、県内の医療者や患者さんおよびご家族の皆様へ最新の治療を情報発信し、そして高度医療を担う人材の育成を目指します。

 以下、特に重点的に実施している代表的な治療をご紹介します。

ロボットスーツHAL®

 医療用ロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb)下肢タイプは、2016年に8つの神経筋疾患(筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、脊髄性筋萎縮症、シャルコーマリートゥース病、筋萎縮性側索硬化症など)に対して保険適用となりました。
 皮膚に貼った電極から、左右の股関節および膝関節の伸筋と屈筋の収縮を感知して、関節の屈伸運動を電動で補助するものです。これまで、筋力が低下した患者さんでは他動的なリハビリテーションが中心で、姿勢の変化や関節拘縮も課題となっていました。HALを用いたリハビリテーションでは、本人の意思に合わせて運動が補助されるため、主体的・能動的な運動訓練が可能となります。そして、運動の結果を自分で評価して次の運動を自発的に調整することによる運動学習効果もあり、末梢神経や筋の機能のみならず大脳機能への好影響があります。すなわち、意欲の向上や精神機能の向上にも寄与すると考え実施しています。

迷走神経刺激療法(VNS)

 薬物治療に抵抗性の難治てんかん患者さんに対して行う手術に治療です。てんかんの治療ではまず薬物治療が選択されますが、20-30%の患者さんでは治療に抵抗するとされています。てんかん外科治療には、焦点切除術や脳梁離断術、大脳半球離断術などがありますが、これらの対象にならない難治てんかんの患者さんに、迷走神経刺激療法が検討されます。左頚部に走向する迷走神経に電極を巻き付け、バッテリー付き刺激発生装置を胸部皮下に埋め込み、迷走神経を電気刺激しててんかん発作を抑えようとする治療ですので、開頭を必要としません。発作の緩和を目的としており、この治療を導入した患者さんの約半数では2年後に発作頻度が50%程度に抑制されるとされています。
 現在、世界で約10万人が使用しているとされている治療で、日本では2010年に保険適用されました。長野県ではこれまでに手術可能な施設がなく、患者さんは県外のてんかん専門施設で埋め込んでいましたが、現在は県内で唯一の手術可能施設として管理できるようになりました。当院では、脳神経外科医が手術し、神経小児科医が刺激強度や頻度の調整をしています。

バクロフェン持続髄注療法(ITB)

 脳性麻痺の患者さんは全身の様々な症状に悩まされていますが、中でも痙縮(筋のつっぱり)は疼痛や変形を伴い、呼吸・循環・消化器系への悪影響も強く、本人のみならず介護者の負担を大きくしています。通常はリハビリテーションと服薬治療による対応を行いますが、それで抑制できない場合にはA型ボツリヌス毒素製剤の筋肉注射に頼ってきました。しかし、定期的に注射が必要であることや、微調整が効かないことなどが難点でした。
 バクロフェン髄注療法は、腹部に埋め込んだポンプから脊髄くも膜下腔に挿入したカテーテルを通じて、バクロフェンという筋緊張緩和薬を極少量ずつ持続的に注入することによって、痙縮を治療する方法です。実施に当たっては、神経小児科医師、リハビリテーション科医師、理学療法士が試験的投与により有効性を確認した上で、脳神経外科医がポンプとカテーテルの埋込術を行います。また、整形外科医や看護師、薬剤師もカンファレンスに参加して適応を検討しています。2006年に保険適用となりましたが、この治療もこれまでは県外で手術を受けざるを得ませんでした。今後は、県内唯一の手術実施施設として、院内の体制を整えることができましたので、痙縮に苦しむ患者さんに広く受けて頂くことが可能となりました。

脊髄性筋萎縮症、筋ジストロフィーに対する新規治療

 脊髄の神経細胞が変性することによって全身の筋萎縮と麻痺が生ずる疾患が脊髄性筋萎縮症です。重症の乳児型では人工呼吸器の補助なしには生命を保てません。その神経細胞の変性を防止するのがヌシネルセン(スピンラザ®)髄注療法です。2017年に保険適用となって依頼、県内の患者さんに定期的に注射して効果が出ています。しかし、この疾患では重度の側湾症を合併することも多く、そのような場合には麻酔科医、整形外科医、脳神経外科医との連携により、難易度の高い髄注が可能となります。さらにこの疾患に対しては、2020年に遺伝子治療薬であるオナセムノゲンアベパルボベク(ゾルゲンスマ®)が、そして来年には髄注を必要としない低分子化合物が使用できる見通しで、予後とQOLの向上に寄与する事になります。また、デュシェンヌ型筋ジストロフィーも進行性に運動障害、呼吸障害、心不全が合併する疾患で、ジストロフィン遺伝子の変異によって発症します。2020年、エクソンスキップによる軽症化を目指した治療が可能となり、ビルトラルセン(ビルテプソ®)が適用取得されました。今後も同系薬が開発中で、この疾患に対する遺伝子レベルでの治療方法がより広がる見通しです。

 以上、当センターが担う治療の一部を例示しましたが、小児神経疾患の治療においてはこれらのほかにも急性脳炎/脳症の集中治療や摂食嚥下機能の評価と誤嚥防止のための喉頭気管分離術、麻痺性脊椎側湾症に対する整形外科手術などで、多診療科部門同士の密接な連携のもと実施しています。さらに、今後開発される予定の最新の医療を必要な患者さんに速やかに提供できるよう、院内連携と院外連携、そして医療人の育成を役割としてセンターの機能を充実させて参りたいと考えています。

(センター長 稲葉雄二)

センター長の紹介

ニューロケア(神経治療)センター長兼副院長兼神経小児科部長稲葉 雄二いなば ゆうじ

すべての子どもが、自分のペースでしなやかに逞しく成長し発達していけるよう、精一杯応援しています。

稲葉雄二
主な経歴
新潟県出身、1991年信州大学医学部卒業。
北信総合病院、帝京大学溝口病院、中信松本病院などで診療し、2003-5年にMcGill大学モントリオール神経研究所に留学後、信州大学勤務を経て、2017年から現職。
所属学会・その他
医学博士、小児科専門医・指導医、小児神経専門医、子どものこころ専門医、日本リハビリテーション学会臨床認定医、日本園芸協会認定庭園管理士など。
信州大学医学部小児環境保健疫学(エコチル)研究センター 特任教授、信州大学医学部 臨床教授、日本発達障害(JDD)ネットワークながの 理事などを兼務。
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