長野県立こども病院 病院長
稲葉 雄二
2026年度は例年より早い桜の開花の便りの届く中、スタートしました。今年度もたくさんの新入職員をお迎えすることができました。
長野県立こども病院は1993年の開院以来、県内外の医療機関とともに数多くの小児・周産期の患者さんのニーズに対応して参りました。開院時の最大の使命は、新生児・小児の命を救うことでした。地域の病院との強い連携と高い技術に支えられて、開院からまもなく長野県は全国でも有数の新生児・乳児死亡率の低い県となりました。全国第4位の面積を持つ長野県で速やかな高度医療の提供に不可欠なのが、医療チームが迎えに行く搬送医療システムです。県内をくまなく駆けるドクターカーは4代目となりました。
病気の早期発見と治療のために、2025年1月から新しい新生児スクリーニング検査体制を整えました。県から受託している先天性代謝疾患等25疾患と、2024年から始まった2疾患の実証事業に加え、11疾患の検査を可能にしてより良い予後につなげています。2025年には、重症の心不全の患者さんに必要な小児用体外設置式補助人工心臓システムを国内14番目・最北の施設として導入しました。また、2026年に保険診療として認可されたデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新規遺伝子治療の実施施設としても認定を受けました。
『命を救う医療』に加え、『命を育む医療』の重要性が増しています。医療技術の進歩により、医療的なケアを日常的に受けながら自宅で生活したり登校したりできるようになりました。そのためには教育や福祉機関・行政との連携と協働により、お子さんとご家族の生活を守り支えていくことが重要です。また、成人期の健康管理を見据えた移行期医療支援についても、地域の医療機関とともに体制を整えつつあります。
新生児集中治療室(NICU)では、フィンランドで開発された『家族と医療者がともに築く医療(Family Centered Care)』を進める教育プログラムを、全国に先駆けて実践しています。呼吸や循環管理、脳保護などを治療のハード面とすると、ソフト面ともいえるこの取り組みは、こどもと家族の絆を強めるのみならず、退院後に連続している育児力やこどもの心身の成長と発達に対する効果が示されています。現在、東京都立病院を始め、全国の施設から研修を受け入れています。
命を救い育む医療にゴールはなく、小児の多様な疾病に対応するためには様々な専門医療が必要です。1994年には14の診療科でしたが、2025年には28科体制で広がる医療ニーズに応えています。少子化の進行は、小児・周産期医療に携わろうとする人材の育成にも大きな影響を及ぼしています。看護部では専門看護師や認定看護師、特定看護師の養成に尽力し、専門性の高い小児看護を提供しています。未解明の医学課題に取り組むべく医学研究を生命科学研究センターが支えています。2019年に開講した信州大学との連携大学院では病院業務の中で出た『臨床的な問い』への答えを見いだそうと研究に邁進し、これまでに10名の医学博士取得者を輩出しました。2025年に教育研修センターを開設して、小児科専攻医の教育とシミュレーション教育を中心とした医療従事者の研修を統括しています。
昨年度、長野県では今後の小児・周産期医療の提供体制のあり方を考えるワーキンググループが組織され、議論されました。少子化の進行、働き方改革と生産年齢人口の減少による深刻な人材不足が加速する中で、安全でよりよい医療の提供のためには、県内の医療機関がこれまで以上に役割分担と連携を密にするとともに、人手不足を補うべくデジタルトランスフォーメーションの促進と人材育成を進めることが重要となっています。
『電池が切れるまで』の舞台となった当院には、たくさんの同じ志を持った職員やボランティアの方々が集っています。2026年度も、『未来を担うこども達とその家族のために、質が高く、安全な医療を提供する』という理念のもと、長野県内外の皆様に必要とされ、頼られる病院であり続けるために、職員が一つになって取り組んでいけるよう力を尽くして参ります。引き続き、皆様のご理解とお力添えを宜しくお願い申し上げます。
2026年4月1日
長野県立こども病院 病院長 稲葉 雄二
院長略歴
| 1991年 | 信州大学医学部医学科卒業 |
|---|---|
| 2003年 | カナダMcGill大学モントリオール神経研究所 留学 |
| 2011年 | 信州大学医学部小児医学教室 准教授 | 2017年 | 長野県立こども病院 院長補佐兼神経小児科部長、信州大学医学部 特任教授 |
| 2019年 | 長野県立こども病院 副院長兼神経小児科部長 |
| 2023年 | 長野県立こども病院 副院長兼診療部長兼神経小児科部長 |
| 2024年 | 長野県立こども病院 病院長 |