こども病院について

院長あいさつ

稲葉 雄二 長野県立こども病院 病院長 稲葉 雄二
 

 病院長に就任し1年が経過しました。この間、たくさんの患者さんやご家族、県内の医療機関やこどもと関わる皆様に当院を支えていただいていることを実感し、改めて深く御礼申し上げます。1993年の開院以来受け継がれてきた、長野県の小児・周産期医療の最後の砦としての使命を果たし、さらに発展させるべく全力を尽くしてまいります。引き続き、ご理解とお力添えを賜りますようお願い申し上げます。

 全国第4の面積を有する長野県では、搬送医療が不可欠です。新生児集中治療室と小児集中治療室のチームは、県内全域の医療機関と強い連携のもと、高度な医療機器を搭載したドクターカーでの迎え搬送に常時備えています。4代目として奔走中のドクターカーは、県内外からの篤いご寄付により購入できました。長野県は小児人口当たりの重症小児患者さんの受け入れ算定件数が、全国で最も多い県となっています。
 多様性に富む小児期の疾患に対応するために順次診療領域を広げ、現在は28の診療科と14の専門センターを開設しています。新規の手術や治療、検査の詳細は、各診療科や専門センターのページをご覧ください。疾患の早期発見と治療のために今年1月生まれの赤ちゃんから、新しい新生児スクリーニング検査体制を整えました。長野県から受託している先天性代謝疾患等25疾患と、2024年から新たに始まった2疾患の実証事業に加え、10疾患の検査を可能にしてより良い予後につなげています。
 医療技術の進歩により、医療的なケアを日常的に受けながらも自宅で生活したり登校したりできるようになりました。これらのお子さんとご家族の健康と生活を守り支えていくことも重要な課題です。しかし、医療のみでは実現不可能で、教育や福祉機関・行政との連携と協働が不可欠です。成人期の健康管理を見据えた移行期医療支援についても、地域の医療機関とともに体制を整えつつあります。
 新生児集中治療室では、フィンランドで開発された「家族と医療者がともに築く医療(Family Centered Care)」を進める教育プログラムを、全国に先駆けて実践しています。呼吸や循環管理、脳保護などを治療のハード面とすると、ソフト面ともいえるこの取り組みは、こどもと家族の絆を強めるのみならず、退院後に連続している育児力やこどもの心身の成長と発達に対する効果が示されています。加えて、4月に発達心療科を開設して、発達に課題のあるお子さんや心身の両面でのケアの必要な患者さんの診療の充実を図ります。
 小児医療に携わる人材育成も当院の重要な使命です。2019年に開設された信州大学の連携大学院では8名の医師と臨床検査技師が医学博士を取得しました。今年度は教育研修センターを開設して小児科専攻医の教育と医療従事者の研修を統括しています。看護部では専門性の高い小児看護を提供するために、専門看護師や認定看護師、特定看護師の養成に尽力するとともに、地域の医療機関における小児看護の技能向上のための研修を積極的に受け入れています。薬剤部、臨床工学科、リハビリテーション技術科でも、専門領域の研修を受け入れ、県内の小児・周産期医療を支える人材の育成に与しています。

 開院から30余年の歳月は、施設の老朽化とともに時代に合ったこれらの医療の提供の妨げになっており、患者さんやご家族に不快感や不便を強いています。また、少子化の進行とコロナ渦の影響は、地域の医療提供体制にも変化をもたらしています。今年4月から地域の医療機関の要請に応えるべく、小児の二次救急の輪番に参画することと致しました。そして、長野県では2025年度に小児・周産期医療提供体制の見直しと当院の施設のあり方に関する検討に着手することが決まりました。
 医療材料費と人件費の高騰は当院にも大きな経営的ダメージを及ぼしています。しかし、「電池が切れるまで」の舞台となった当院には、たくさんの同じ志を持った職員やボランティアの方々が集っています。これからも「こどもまんなか社会」の担い手として時代に合った医療を提供し、長野県内外の皆様に必要とされ、頼られる病院であり続けるために、職員が一つになって取り組んでいけるよう力を尽くして参ります。どうか宜しくお願い申し上げます。

2025年4月1日

長野県立こども病院 病院長 稲葉 雄二

院長略歴

1991年 信州大学医学部医学科卒業
2003年 カナダMcGill大学モントリオール神経研究所 留学
2011年 信州大学医学部小児医学教室 准教授
2017年 長野県立こども病院 院長補佐兼神経小児科部長、信州大学医学部 特任教授
2019年 長野県立こども病院 副院長兼神経小児科部長
2023年 長野県立こども病院 副院長兼診療部長兼神経小児科部長
2024年 長野県立こども病院 病院長
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