診療科・部門

ファミリーセンタードケアの取り組み

ファミリーセンタードケアとは

 新生児集中治療室(NICU)にお子さんが入院することについて、どのような印象をお持ちですか?

 NICUへの入院が必要なお子さんは、お父さんやお母さんの存在を必要としています。逆にお父さんやお母さんも、お子さんがNICUに入院中でも一緒にいたいと思うでしょう。
NICUでは、ご両親がお子さんに寄り添うことは、大きな意味を持ちます。NICUにおいてご両親がお子さんと一緒の時間を過ごし、お子さんの治療やお世話(ケア)に積極的に関わること、またそれらをサポートすることを、ファミリーセンタードケア(family centered care)と呼びます。
 ファミリーセンタードケアが様々な効果をもたらすことが、世界中の研究でわかってきました。赤ちゃんの成長や発達を助け、退院を早めます。ご両親の気分の落ち込みやストレス、不安などを和らげ、母乳の分泌を良くします。医療費を削減するというデータもあります。

 当院ではこれまで、24時間面会を取り入れ(社会状況によっては面会時間制限があります)、カンガルーケアを積極的に推進するなど、ファミリーセンタードケアの取り組みを進めてきました。一方、もっとご両親にお子さんの近くにいてもらうために、またもっとご両親にNICUでの育児に関わってもらうために、この取り組みを更に発展させる以下のような活動を行っています。将来的には、日本の他の施設とも協力し、日本全国でよりよいファミリーセンタードケアを実現できることを願っています。

活動の目標

  •  ご家族が赤ちゃんの治療やケアに関わる機会を増やします
  •  スタッフは、家族を支援し治療やケアへの関りを増やすためのコミュニケーション方法を学びます
  •  日本で履修可能なファミリーセンタードケアのプログラムを、開発し広めます
  •  ファミリーセンタードケアに関わる研究を推進します

カンガルーケア

 赤ちゃんをお父さんやお母さんの胸の上で抱き、肌と肌を触れ合わせることを、カンガルーケアと呼びます。NICUへの入院が必要なお子さんに対するカンガルーケアは、多くの研究により様々な効果が示されています。赤ちゃんに対しては、状態(呼吸や体温)を安定させ、痛みや感染症を減らし、成長を促します。また、母乳分泌を促進させ、ご両親のストレスや不安を和らげる可能性もあります。
 当院NICUでは、積極的にカンガルーケアを推進しています。気管挿管中の赤ちゃんへの実施も、徐々に進めています。安全に実施するために、ガイドラインを作成し、スタッフに対する講習を定期的に実施しています。ご希望やご質問がありましたら、お気軽にスタッフまでお声がけください。

フィンランド視察

 当院NICUと深いつながりのあるフィンランドのトゥルク大学病院NICUこちら に紹介動画があります)は、世界のファミリーセンタードケアを牽引する存在です。個室のNICUには両親用のベッド2台が常備され、両親が赤ちゃんと一緒に生活できる環境が整っています。NICUのスタッフは、Close Collaboration with Parents trainingというファミリーセンタードケアのトレーニングを受けており、両親と一緒に赤ちゃんの治療やケアを行う能力を身につけています。また、多数の研究を行い、欧米を中心とした研究グループであるSCENE research groupを先導するなど、世界のファミリーセンタードケアの研究を推進する存在です。
 当院からは、2016~2018年に小田医師が留学し、2020年からは糸島医師がファミリーセンタードケアの研究を継続中です。

 2022年8月、フィンランドで当院とトゥルク大学病院の新生児合同セミナーを開催しました。当院から医師4名と看護師4名が参加しました。トゥルク大学病院NICUの視察、レクチャーやディスカッションを通じて、ファミリーセンタードケアに関する最新の知見に触れ、理解を深めました。日本とフィンランドで文化は違いますが、特にファミリーセンタードケアやその背景にある考え方には、私たちが学ぶことが多く残されていると実感しました。

Close Collaboration with Parents training

 ファミリーセンタードケアが家族全体や医療に良い影響があることは、既に多くの研究で分かってきました。しかし、どのようにご両親がお子さんと一緒に過ごす時間をサポートするのか、またどのようにご両親にNICUでの治療やお世話に関わっていただくのが良いのかは、まだよくわかっていません。

 その一つの答えが、Close Collaboration with Parents trainingです。これはフィンランドのトゥルク大学病院から始まった、NICUの医療者向けの教育プログラムです。ファミリーセンタードケアがなぜ重要なのか、またどのようにご両親とお子さんの関わりをサポートすればよいのかを、実習も交えて学びます。NICU全体でこのプログラムを履修することで、施設としてのファミリーセンタードケアをより良くし、ご両親の滞在時間やカンガルーケアの時間を伸ばし、お母さんの気持ちの落ち込みを減らし、入院期間を短くするなどの効果が得られると言われています。

他にも多くのファミリーセンタードケアのプログラムがある中で、Close Collaboration with Parents trainingは以下のようなユニークな点があります。

  •  NICUのスタッフに対するプログラム
  •  主にコミュニケーション方法に対する介入
  •  全ての家族に有効(家族の個性を尊重し柔軟に対応する)
  •  全てのNICUに有効(施設の状況に合わせた柔軟な履修計画)
  •  NICU全体のケア文化や考え方を変える

当院NICUでは、2023年よりClose Collaboration with Parents trainingの履修を開始します。ファミリーセンタードケアの包括的なプログラムの履修は、日本ではほとんど前例がありません。将来的には、日本の文化により合ったファミリーセンタードケアのプログラムを開発する予定です。

臨床研究

ファミリーセンタードケアの取り組みは、どのような効果をもたらすのでしょうか。それを調べることは、より多くの施設でより多くの家族が効果を享受することにつながります。当院NICUではファミリーセンタードケアを含めた臨床研究を、積極的に推進しています。
現在、以下のような臨床研究を行っております。

コホート研究

 NICUにお子さんがいるご両親は、どれだけの時間をNICUで過ごし、お子さんとのカンガルーケアや育児ケアを行っているのでしょうか。本研究では、その実際を把握し、今後のご両親とのよりよい関わり方を模索することを目的としています。また、NICUの滞在時間やケアへの関りの時間が、ご両親の気分の落ち込みやボンディング(赤ちゃんとのつながりの気持ち)に与える影響も調べる予定です。
 対象は院内で出生された在胎週数35週未満のお子さんおよびそのご両親です。ご両親へは、面会時の記録のほか、気分の落ち込みやボンディングを調べる質問票への記入をお願いしています。
 当院倫理委員会の承認を得て、ClinicalTrials.govに登録済です。

家族回診 介入研究

 NICUで医師の回診に参加した経験のあるご家族、あるいは回診にご家族を定期的に参加させている医療者はどれほどいるでしょうか。欧米では徐々に広まりつつありますが、日本ではまだ医療者間で行う回診が一般的かと思います。しかし、お子さんの方針の決定に関わることは、両親の権利であり、家族としての大切なステップと考えています。
 当院では2023年2月より、通常の回診とは別に、ご両親に議論や決定に関わっていただくための「家族回診」を開始しています。前例がほとんどない取り組みなので、まずは研究という形で対象のご家族を限定して実施します。対象は、家族回診を開始する時点で残り1か月以上の入院期間が見込まれる赤ちゃんとご家族です。研究では、家族回診への参加がファミリーセンタードケアの質やご両親の不安などに与える影響を調べます。
 ご家族とスタッフからのフィードバックで、少しずつ内容を改善していく予定です。研究は半年程度の予定ですが、将来的には全てのご家族と実施することを目標にしています。
当院倫理委員会の承認を得て、ClinicalTrials.govに登録済です。

TOP